ドイツワイン物語

シラーとワイン

2017/09/12

 

ゲーテと並んで同時代の文壇を代表する大詩人フリードリッヒ・フォン・シラーもワイン好きで知られていますが、彼の愛飲したワインはアルコール分の高いブルゴーニュワインの赤だったと伝えられ、この欄にご登場願うのはお門違いの気がしないでもありまませんが、ヴェルテムベルク地域に彼の名を冠した混醸ワインがあり、また、彼の存在感は今でも日本人の多くの人を惹きつけていることを考えると登場して頂かないわけにはいきません。
混醸ワインは法的には赤ワインでも白ワインでもない独立したワインで、赤ワイン用のぶどうと白ワイン用のぶどうの果実どうし、または赤、白の絞り果汁どうしをブレンドして醸すもので、シラーワインはこの方法(ROTWEISSまたはROTLING)で造られますがヴェルテムベルク産のぶどうでQbA(上級ワイン)に限られるローカル色の強いワインで殆ど地元において消費され日本には殆ど輸入されていません。
このワインの命名の由来について、日本では赤白のぶどうがブレンドされると、赤と白の間が「やぶにらみ(Schielen)」状態になるのにあやかって、「シーレンワイン(Schielenwein)」と呼んでいたのを、生産地が誇る大詩人シラー(Schieller)と語感が似ているのでその名声にあやかってシラーワイン(Schiellerwein)と変えたのだと信じられてきたのですが、ヘシッシュベルクシュトラーセ・ベンスハイム国立醸造所所長のヒレンブラントさんによれば、「波が太陽の光に映えてきらきら輝く、シーラン(Schillern)」からだと訂正され、その後、来日された後任のハーレさんに確かめるとその通りですと話されたのです。

シラーとワインの関係はこの程度ですが、日本では毎年暮れになると演奏されるベートーヴェン作曲、交響曲第九番の中で歌われる「喜びの歌」を耳にすると、多くの人がシラーの存在を感じるのです。シラーはワインを讃える詩は残していませんが、「自然」について詠った詩の一つが、みなとみらい駅のステーションコア大壁面を飾っていますので、その訳詞を紹介しておきます。

「樹木は成育することのない 無数の芽を生み 根をはり枝を拡げて 個体と種の保存にありあまるほど 養分を吸収する 樹木はこの溢れんばかりの過剰を 使うことも享受することもなく自然に返すが 動物はこの溢れる養分を自由で 嬉々とした自らの運動に使用する このような自然はその初源から生命の 無限の展開にむけての序曲を奏でている 物質としての束縛を少しずつ断ち切り やがて自らの姿を自由に変えていくのである。」(横浜シテイ・マネージメント(株)提供)

奇しくもヴュルテムベルク出身のもう一人の文豪ヘルマン・ヘッセは「老いた人びとにとってすばらしいものは 暖炉とブルゴーニュの赤ワインと そして最後はおだやかな死だ しかし、もっとあとで、今日でなく」(岡田朝雄訳)とワインを詠みこんだ詩を残していますが、「ブルゴーニュの赤ワイン」を「モーゼルの白ワイン」と読み替えて乾杯するのも一興かなと思っています。

 

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